植物エクジステロイド(PE)の鱗翅目昆虫への影響 修士2年 中川りき

植物エクジステロイド(PE)の鱗翅目昆虫への影響 修士2年 中川りき

植物エクジステロイド(PE)は植物に含まれる第二級化合物で,全植物中の5-6パーセントで発見されており,代表的なものに20-hydroxyecdysone (20E)がある(1)。PEは昆虫の脱皮ホルモンの構造類似体であり,昆虫の食害に対する防御物質であると通常考えられている。カイコやピンクボールワームなど,PE含有度の低い植物を寄主とする昆虫(2)では,PEを含む餌を与えると成長が阻害されることが報告されている(3)。一方,Spodoptera littoralisや,PE含有量の多い植物を寄主とするManduca sextaは,PEへの抵抗性を示すことが知られている(1)(4)。

PEは原始的な植物で発見されており,また分布が広域であることから,植食性昆虫はPEに対処するための戦略を発達させてきたと考えられる。幾種かの鱗翅目昆虫では,幼虫が味覚によって,PEを含む餌を忌避すると報告されている。例えば,Spodoptera littoralisはPE抵抗性を持っていながら,PEを塗布された餌を忌避すると報告されている(5)。PEを幼虫が摂取しないためには,幼虫のPE忌避性だけでなく,産卵する母親のPE忌避性も有効であるはずである。Delphineらは,ヨーロピアン・グレープヴァイン・モス(Lobesia botrana, Lepidoptera Tortricidae)を用い,メス成虫のPE忌避性について調査した。この昆虫の寄主植物はPEを含まないことから,このガはPE感受性であることが予測され,また既に幼虫のPE忌避性は確認されている。寄主であるブドウの実を模したガラス球にPE(20E)を塗布したものと,水を塗布したものとで二択テストを行った結果,メス成虫は20Eを塗布されたガラス球を避けて産卵した。著者らは,20Eを受容するための味覚器(14個の錘状感覚器のうちの1グループの1ニューロン)を,成虫の足に発見した(6)。

Delphineらはさらに,ヨーロッパアワノメイガ(ECB)についても,メス成虫の20E忌避性について調査した。ECBは,幼虫のPE忌避性については既に報告されており,また非常に広食であることから,PEにさらされる機会が多く,その対処のための戦略が確立していると期待した。しかし,ガラスやナイロンなどの人工物に20Eを塗布した場合の二択テストでは,コントロールとの間で産卵数に差はなかった。一方,トウモロコシの葉に20Eを塗布した場合の二択テストでは,コントロールに比べ産卵数が70%減少した。この結果は,ECBメス成虫の産卵行動を変化させるには,20Eだけでなく,20E以外の葉由来の物質が必要であることを示唆している(7)。

Reference

(1)DINAN, L. 1998. A strategy towards the elucidation of the contribution made by phytoecdysteroids to the deterrence of invertebrate predators on plants. Russ. J. Plant Physiol. 45:296–305

(2) KUBO, I., KLOCKE, J. A., and ASANO, S. 1983. Effects of ingested phytoecdysteroids on the growth and development of two lepidopterous larvae. J. Insect Physiol. 29:307–316.

(3) TANAKA, Y. and TAKEDA, S. 1993. Ecdysone and 20-hydroxyecdysone supplements to the diet affect larval development in the silkworm, Bombyx mori, differently. J. Insect Physiol. 39:805–809

(4) BLACKFORD, M., CLARKE, B., and DINAN, L. 1996. Tolerance of the Egyptian cotton leafworm Spodoptera littoralis (Lepidoptera, Noctuidae) to ingested phytoecdysteroids. J. Insect Physiol. 42:931–936.①②

(5)MARION-POLL, F. and DESCOINS, C. 2002. Taste detection of phytoecdysteroids in larvae of Bombyx mori, Spodoptera littoralis and Ostrinia nubilalis. J. Insect Physiol. 48:467–476③

(6)Calas, Delphine, Denis Thiéry, and Frédéric Marion-Poll. “20-Hydroxyecdysone deters oviposition and larval feeding in the European grapevine moth, Lobesia botrana.” Journal of chemical ecology 32.11 (2006): 2443-2454.④
(7) Calas, Delphine, Andrée Berthier, and Frédéric Marion-Poll. “Do European corn borer females detect and avoid laying eggs in the presence of 20-hydroxyecdysone?.” Journal of chemical ecology 33.7 (2007): 1393-1404.