オスは適応度を上昇させるため、同性であるオスに対しては闘争行動をとり、異性であるメスに対しては求愛行動をとる。本来であれば異性(メス)に対して示すはずの求愛行動を同性(オス)に対して示す行動は、同性間配偶行動(Same-sex Sexual Behaviors:以下、SSBs)と呼ばれ、様々な動物で観察されている。SSBsは多くの分類群で観察される普遍性の高い行動であるものの、交尾機会の喪失、エネルギーコストおよび生存率の低下などが伴うため、非適応的な行動であると考えられてきた。
一般に無脊椎動物におけるSSBsは、形態や性フェロモンなどを用いた性別の判定が困難な種あるいは条件において起こりうる、単なる「誤った」認識の結果であると説明されることが多い。つまり、性別の誤認識によって、同性であるオスにアプローチしてしまったオスは、その分メスへのアプローチ時間やエネルギーを浪費してしまうため、非適応的であると考えられてきた(1, 2)。一方、SSBsによって異性間配偶行動に対するモチベーションを高められるというように、利益的に働く場合も少数ながら存在している(3, 4)。
誤った性認識によりSSBsを行ってしまうオスと同様、SSBsを受ける側のオスにおいてもコストとなる場合と、その反対に利益となる場合がある。例えば、SSBsを受けることで、寿命が減少することが寄生蜂の一種Psyttalia concolor、ニクバエの一種Prochyliza xanthostomaおよびヨツモンマメゾウムシなどで報告されている(5, 6)。これは求愛による性的なハラスメントが、闘争などと同様、コストとなった可能性が示唆され、SSBsの受容者は不利益を被る。一方、ダニの一種Rhizoglyphus robiniでは、SSBsの増加に伴い、オス間闘争が減少することから、間接的な利益を得ている可能性が示唆されている(7)。また、シオマネキの一種Uca annulipesにおいて、自切によりハサミを失ったオスは、メスと同頻度でオスからの求愛を受ける一方、闘争インタラクションは減少することが分かっている(8)。ただし、これらの実験では寿命などが計測されたわけではないため、SSBsによるコストの存在は否定できない。また、SSBsの有無はオスどうしの闘争には関係しないという例が、コオロギの一種Teleogryllus oceanicusで知られており(9)、SSBsの増加とオス間闘争の減少との間には、少なくとも一般化できるような関係性は存在しないようである。
このように、誤った性別の認識に端を発するオスのSSBsは、誤った求愛を「行う側」か「受ける側」かによってコストや利益が異なるため、進化的に維持されてきた理由を探ることは容易ではない。しかしながら、SSBsによるコストが性別判断能の精確性の発達に寄与してきた可能性もあり、フェロモンや求愛時の視覚ディスプレイの進化を研究する上で、SSBsを蔑ろにはできないだろう。
【引用文献】
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