鱗翅目昆虫の寄主植物の探索 修士課程1年 中川りき

鱗翅目昆虫の寄主植物の探索 修士課程1年 中川りき

鱗翅目昆虫は,寄主植物が放出する揮発性低分子化合物を匂いとして嗅ぎ取ることで定位する(1)。この揮発性低分子化合物は,メスを産卵場所へ誘導するのに重要な役割を担っている(2)。

それでは,メスはどのような寄主植物の揮発性成分を識別するのだろうか?この問いには2通りの説が答えとして考えられる。すなわち,(ⅰ)寄主植物に特異的な(他の植物にない)特定の化合物にメスが反応するという説と,(ⅱ)寄主植物に特異的な比率の揮発性有機化合物のブレンド(個々の化合物は植物種を通じて一般的なもの)にメスが反応するという説である。(ⅰ)の例は,アブラムシ類でイソチオシアネートが報告されている(3)が,(ⅱ)の説を裏付ける研究結果が圧倒的に多いことから,近年では(ⅱ)の説が主流である(1)。

(ⅱ)の例として,鱗翅目昆虫ではCydia molesta(ハマキガ科)のメスが(Z)-3-hexen-1- yl acetate, (Z)-3-hexen-1-ol , benzaldehyde の 4:1:1混合物に誘引される一方,個々の化合物単体には誘引されないことが報告されている(4)。

また,グレープヴァインモス(Lobesia botrana、鱗翅目・ハマキガ科)では,寄主植物の匂い成分のブレンドの変化に応じてbehavioral responseを示すことが観察されており,これは寄主植物の生育段階や部位の違いによるブレンドの多様性に対応したものである可能性がある(5)。

因みに鱗翅目ではないが,膜翅目のマツノキハバチでは,少量のリモネンにはメスが誘引されるが,大量のリモネンには忌避反応を示すことがわかっている(6)。

このように,嗅覚からの情報はメスの寄主探索において重要な役割を果たしているが,グレープヴァインモスにおいては,主に嗅覚によって寄主植物の探索が行われる一方、実際に寄主植物に着陸するときには視覚も寄与していることが示唆されている(7)。これまでの鱗翅目昆虫の寄主探索に関する研究は,嗅覚に着眼したものが主であった。その他の感覚器官が,寄主探索に寄与しているという可能性は興味深い。

Reference

1.   Bruce, Toby JA, Lester J. Wadhams, and Christine M. Woodcock. “Insect host location: a volatile situation.” Trends in plant science 10.6 (2005): 269-274.

2.   Binder, B. F., J. C. Robbins, and R. L. Wilson. “Chemically mediated ovipositional behaviors of the European corn borer, Ostrinia nubilalis (Lepidoptera: Pyralidae).” Journal of chemical ecology 21.9 (1995): 1315-1327.

3. Nottingham, Stephen F., et al. “Behavioral and electrophysiological responses of aphids to host and nonhost plant volatiles.” Journal of Chemical Ecology17.6 (1991): 1231-1242.

4. Natale, D., et al. “Response of female Cydia molesta (Lepidoptera: Tortricidae) to plant derived volatiles.” Bulletin of entomological research 93.4 (2003): 335-342.

5. Tasin, Marco, et al. “Synergism and redundancy in a plant volatile blend attracting grapevine moth females.” Phytochemistry 68.2 (2007): 203-209.

6. Martini, Antonio, et al. “The influence of pine volatile compounds on the olfactory response by Neodiprion sertifer (Geoffroy) females.” Journal of chemical ecology 36.10 (2010): 1114-1121.

7.  Masante‐Roca, Ingwild, et al. “Attraction of the grapevine moth to host and non‐host plant parts in the wind tunnel: effects of plant phenology, sex, and mating status.” Entomologia experimentalis et applicata 122.3 (2007): 239-245.