YOLOの畜産分野における利用事例 修士課程1年 渠 一村

YOLOの畜産分野における利用事例 修士課程1年 渠 一村

近年、画像解析にディープラーニングの手法が用いられるようになり、様々な分野で活用されている。画像解析には主として分類、物体検出、および画像分割の3つの種類がある。YOLO(You Look Only Once)はリアルタイム物体検出アルゴリズムの一つである。このアルゴリズムでは検出窓をスライドさせるような仕組みを用いず、画像をCNNに通すことで、1ステップだけでオブジェクトを検出することができる(1)。YOLO version 2からはアンカーボックスを導入し、9000以上の対象を検出することができるようになった(2)。YOLO version 3は更に検出の精度と速度を兼ね備えて(3)、科学研究において活用されるのみならず、さまざまな業界でも利用されてきている。今回のセミナーでは、動物に関連した産業として、畜産分野におけるYOLOの利用事例を紹介していく。

YOLOは従来の物体検出アルゴリズムより、短時間で比較的高精度で物体を検出できるため、リアルタイムの行動実験での利用に向いている。例えば、YOLO version 3ベースのトラッカーはオープンフィールドテスト(open field test: OFT)で変化する環境でも異なるグループのマウスを識別また追跡することができる。この識別の精度は肉眼による測定と同じレベルであることが示された。(4)

最近では、研究室での利用だけではなく、実際に産業での応用事例も出てきている。例えば、乳牛を対象として、YOLOは外見上の特徴(黒い斑紋や異なる体の部位を分割してそれぞれの特徴を抽出する)により、リアルタイムで個体識別することができる(5)(6)。養鶏での適用事例もある。YOLOは生産ラインでの画像によって、ニワトリの3種類の気絶状態(stunned states)を識別することができ、更に1時間内18万羽以上の測定をできるようになる(7)。このようにYOLOを活用することにより、管理や生産効率の向上に多大な恩恵があると考えられている。

ところで、今まで物体検出のアルゴリズムは主に対象の分類と位置を識別、すなわち「何か」と「どこか」という問題を解決することを重視してきた。AIは人のようなコンテクストに応じて無意識に連想する能力を持たないため、一つの画像だけで対象の行動を判別するのは難しい。しかし、「何かどこに」を識別した上で「何をしている」も判断した事例も存在する。養鶏場における適用例で、YOLOはニワトリの交配、採餌、立つ、闘争、水を飲む、分散、の6つのクラスの行動を正確に識別することができることが示された(8)。これはYOLOの活用方法としては一歩進んだものと考えられる。

YOLOのアルゴリズムは、ドローンやロボットと併用することでさらに生産や生活への応用面が広がる可能性を持っている。今後、ディープラーニングとファクトリーオートメーションの発展とともに、YOLOの畜産分野での応用例がさらに増えるものと考えられる。

References

  1. Joseph Redmon AF (2016) You Only Look Once: Unified, Real-Time Object Detection.
  2. Joseph Redmon AF (2017) YOLO9000: Better, Faster, Stronger.
  3. Joseph Redmon AF (2018) YOLOv3: An Incremental Improvement.
  4. Hatton-Jones KM, Christie C, Griffith TA et al. (2021) A YOLO based software for automated detection and analysis of rodent behaviour in the open field arena. Comput Biol Med 134, 104474.
  5. Tassinari P, Bovo M, Benni S et al. (2021) A computer vision approach based on deep learning for the detection of dairy cows in free stall barn. Computers and Electronics in Agriculture 182.
  6. Hu H, Dai B, Shen W et al. (2020) Cow identification based on fusion of deep parts features. Biosystems Engineering 192, 245-256.
  7. Ye C-w, Yu Z-w, Kang R et al. (2020) An experimental study of stunned state detection for broiler chickens using an improved convolution neural network algorithm. Computers and Electronics in Agriculture 170.
  8. Wang J, Wang N, Li L et al. (2019) Real-time behavior detection and judgment of egg breeders based on YOLO v3. Neural Computing and Applications 32, 5471-5481.