高卯さんが筆頭著者の論文 “Contribution of visual stimuli to mating and fighting behaviors of Drosophila prolongata” が Entomological Science 誌に掲載されました。
この論文では、テナガショウジョウバエの白眼突然変異体をCRISPR/Cas9を用いて高効率で作り出すことに成功しました。白眼突然変異体は肉眼で簡単に見分けることができるため、ゲノム編集実験の最初のターゲットとしてよく採用されるだけでなく、引き続いて遺伝子導入を行っていく際の基盤系統として重宝されます(遺伝子導入が成功したら白眼が赤眼に戻るような仕組みを使うと、遺伝子導入効率が例え何千分の1の確率しかなくても簡単に成功個体を見つけ出すことができる)。
ところが興味深いことに、テナガショウジョウバエの白眼突然変異体の子孫を得ることはどうやってもできませんでした。調べてみると、求愛行動の誘導に視覚刺激が必要であり、目が良く見えない白眼突然変異体は交尾ができないことがわかりました。
交尾行動に視覚刺激が必須であるか、そうでないかはショウジョウバエの種によって異なっており、オウトウショウジョウバエの白眼突然変異体はやはり交尾できない一方で、キイロショウジョウバエの白眼突然変異体は実験室環境であれば問題なく交尾できます。テナガショウジョウバエは正常な視覚がないと交尾できない種だったようです。ゲノム編集の実験から予期せずして感覚依存の種間多様性に気づかされることとなりました。
ショウジョウバエは視覚の他にも匂いや音を手掛かりに交尾行動を行っていますが、それぞれの感覚の重要性は近縁種でもかなり異なっており、視覚に強く依存する種がいる一方で嗅覚があれば十分な種もいるということだと考えられます。テナガショウジョウバエは翅に斑点があったり前脚が白黒に塗り分けられていたりといった特徴がありますが、視覚に依存する傾向がこのような模様の進化をうながしたかもしれません。