・昆虫含めた多くの動物で、繁殖行動は同種パートナー間での化学的なコミュニケーションと関係している。鱗翅目昆虫で見られるような、メスの作る性フェロモンをオスが受容・処理することで配偶行動が引き起こされる仕組みについて、オスの年齢がフェロモン応答の程度に深く関わっていることが示唆されている。
・年齢がオスのフェロモン応答に及ぼす影響やそのメカニズムについて、繁殖行動面から、またオスの第一嗅覚中枢である触角葉(AL)の神経感度の面から、近年活発な研究がおこなわれている。
・Agrotis ipsilonを用いた実験でわかったことは、アラタ体における幼若ホルモンの生合成活性は、年齢を経ることやフェロモンを受容することで増加するということである。 (1)
・メスの性フェロモンへのオスの繁殖応答においてアラタ体の存在が不可欠であり、幼若ホルモンのレベルを調節することでオスのフェロモン応答行動を操ることが可能となっている。(2)
・JHの反応を仲介する神経調整物質としては、オクトパミン(OA)やドーパミン(DA)が考えられる。(3)(4)
・AL内でのOAレベルに、未成熟オスと成熟オスで違いはないが、OAとJHは同時に存在することが必要であり、行動面での実験からそのどちらが少なくてもフェロモン応答行動をとることができないことが示された。 (3)
・また、昆虫の主なステロイドホルモンであるエクジステロイド(20E)をインジェクションしたオスはより活発な繁殖行動をとるようになることが知られている。(6)
・これらのホルモンは受容体を通じて影響力を調整されている。受容体の拮抗薬やノックダウンによってオスのAL内神経感度や繁殖行動は著しく影響を受けるからである。(4)(5)(6)
・年齢は性フェロモン以外のフェロモンへの応答にも影響する。砂漠のバッタSchistocerca gregariaは集合フェロモンによって集合行動を誘発している。もっとも効果的な集合フェロモンの構成要素であるフェニルアセトニルへの反応が年齢とJHに依存していることが示されている。(7)
・このように、昆虫は内分泌系を通じて年齢依存的なフェロモン応答を見せることで繁殖プロセスの同時化を図り、より適応的な戦略としているのである。
(1)Duportets L, Dufour MC, Couillaud F, Gadenne C. 1998. Biosynthetic activity of corpora allata, growth of sex accessory glands and mating in the male moth Agrotis ipsilon (Hufnagel). J. Exp. Biol. 201:2425–32
(2)Gadenne C, Renou M, Sreng L. 1993. Hormonal control of sex pheromone responsiveness in the male black cutworm, Agrotis ipsilon. Experientia 49:721–24
(3)Jarriault D, Barrozo RB, de Carvalho Pinto CJ, Greiner B, Dufour MC, et al. 2009. Age-dependent plasticity of sex pheromone response in the moth, Agrotis ipsilon: combined effects of octopamine and juvenile hormone. Horm. Behav. 56:185–91
(4)Abrieux A, Duportets L, Debernard S, Gadenne C, Anton S. 2014. The GPCR membrane receptor, DopEcR, mediates the actions of both dopamine and ecdysone to control sex pheromone perception in an insect. Front. Behav. Neurosci. 8:312
(5)Duportets L, Barrozo RB, Bozzolan F, Gaertner C, Anton S, et al. 2010. Cloning of an octopamine/tyramine receptor and plasticity of its expression as a function of adult sexual maturation in the male moth Agrotis ipsilon. Insect Mol. Biol. 19:489–99
(6)Duportets L, Maria A, Vitecek S, Gadenne C, Debernard S. 2013. Steroid hormone signaling is involved in the age-dependent behavioral response to sex pheromone in the adult male moth Agrotis ipsilon. Gen. Comp. Endocrinol. 186:58–66
(7)Ignell R, Couillaud F, Anton S. 2001. Juvenile-hormone-mediated plasticity of aggregation behaviour and olfactory processing in adult desert locusts. J. Exp. Biol. 204:249–59