昆虫は他の動物と同様にエサ場や交尾相手などを視覚からの情報をもとに判断している[1]。今回のセミナーでは、光の情報を受け取る細胞(光受容細胞)の機能と行動との結びつきをキイロショウジョウバエの研究を例に挙げ紹介する。
キイロショウジョウバエの複眼は約750個の個眼からなり、各個眼はR1からR8と呼ばれる8つの異なるタイプの光受容細胞 (photoreceptor cell) を持つ。光受容細胞のうちR7とR8は各個眼の中央に位置し、R1~R6はその外側に位置する[2]。R1~R6光受容細胞は広範囲の波長の光に応答し、物体の動きの検出にかかわっている。物体の動きの検出のほかに、Zhouらは物体の端を認知しそこに寄って行く行動にはR1~R6光受容細胞だけで必要十分であることを、光の強度差のコントラストで疑似的に端を作り出すことにより明らかにした[3]。つまり光の強度を区別して行動していると言える。一方、R7・R8光受容細胞は異なる波長の光を区別する色覚認識にかかわっている。Yamaguchiらは、R7とR8光受容細胞にかかわる多様な変異体を用いたTwo choice testによって、紫外線・青色・緑色それぞれの波長帯がどの光受容細胞によって認識されているのかを明らかにした[4]。また、Schnaitmannらは、色識別と学習とを組み合わせることによって、R7・R8光受容細胞は光の強度ではなく色をそのものとして認識し、行動していることを明らかにした[5]。ここまでの研究例は、R1~R6光受容細胞とR7・R8光受容細胞が別々に機能しているように述べてきたが、Warrillらの研究によると、R7・R8光受容細胞は、物体の動きの検出にかかわるということが、電気生理学的実験と行動実験を組み合わせることで証明された[6]。この結果より、動きの検出には色識別以上に光受容細胞間で複雑な制御が行われていることが予想できる。
ここまで、光受容細胞の機能について述べてきたが、最後に光と行動について考えていきたい。QiuとXiaoらは、パルス光をキイロショウジョウバエの白眼変異体であるw1118に照射すると、アッセイプレート中央を横切る行動が光照射なしのときに比べ、少なくなることを見出した[7]。白眼変異体は眼の色素に関わる遺伝子に変異が入ったものであり、光受容細胞そのものは変化していないと仮定すると、野生型でも同じ行動が見られるのではないかと考えられ、野生型の実験によってこの行動の変化が生じるのかを確認することが望まれる。変化が生じたのなら、色そのものによってもたらされたものなのか、光の強度によってもたらされたのかを明らかにすることで、光受容細胞の機能と行動の理解がさらに深まり、生じなければ、光受容細胞の白眼変異体と野生型の差を行動から見いだせるといえる。いずれにせよ、光受容細胞の機能と行動との結びつきをより深く理解することにつながると考えられ、さらなる研究が期待される。
Reference
[1] S. D. Finkbeiner, A. D. Briscoe, and R. D. Reed, “Warning signals are seductive: relative contributions of color and pattern to predator avoidance and mate attraction in Heliconius butterflies.,” Evolution (N. Y)., vol. 68, no. 12, pp. 3410–20, Dec. 2014.
[2] B.-M. Song and C.-H. Lee, “Toward a Mechanistic Understanding of Color Vision in Insects.,” Front. Neural Circuits, vol. 12, p. 16, Feb. 2018.
[3] Y. Zhou, X. Ji, H. Gong, Z. Gong, and L. Liu, “Edge detection depends on achromatic channel in Drosophila melanogaster.,” J. Exp. Biol., vol. 215, no. Pt 19, pp. 3478–87, Oct. 2012.
[4] S. Yamaguchi, C. Desplan, and M. Heisenberg, “Contribution of photoreceptor subtypes to spectral wavelength preference in Drosophila.,” Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., vol. 107, no. 12, pp. 5634–9, Mar. 2010.
[5] C. Schnaitmann, C. Garbers, T. Wachtler, and H. Tanimoto, “Color Discrimination with Broadband Photoreceptors,” Curr. Biol., vol. 23, no. 23, pp. 2375–2382, Dec. 2013.
[6] T. J. Wardill, O. List, X. Li, S. Dongre, M. McCulloch, C.-Y. Ting, C. J. O’Kane, S. Tang, C.-H. Lee, R. C. Hardie, and M. Juusola, “Multiple spectral inputs improve motion discrimination in the Drosophila visual system.,” Science, vol. 336, no. 6083, pp. 925–31, May 2012.
[7] S. Qiu and C. Xiao, “Walking behavior in a circular arena modified by pulsed light stimulation in Drosophila melanogaster w1118 line.,” Physiol. Behav., vol. 188, pp. 227–238, May 2018.