植食性昆虫の産卵に対する植物の防御反応 修士2年 中川りき

植食性昆虫の産卵に対する植物の防御反応 修士2年 中川りき

植物は,植食性昆虫に卵を産みつけられると,実際に食害される前であっても,将来の食害に対処するためや,被害を小さくするために直接的もしくは間接的な防御反応を起こす。間接的な反応のひとつに,OIPV(oviposition induced plant volatile)の放出がある。植物は,植食性昆虫の幼虫の食害により,HIPV(herbivore induced plant volatile)と呼ばれる特殊な匂いを放出することが知られているが,卵を産み付けられることによっても,OIPVと呼ばれる匂いを放出する(1)。

OIPVの役割については,産卵された卵の天敵を誘引することや,それ以上の産卵を抑制する忌避剤としての機能が考えられ,そのような報告は多くある。Chilo. partellus(ツトガ科)のメスは,他のメスの産卵により変化した寄主植物の匂いを感じ取り,そのような状態のイネ科寄主植物(Brachiaria brizantha)に産卵することを避ける。またこの匂いが天敵のコマユバチ(Cotesia sesamiae)を誘引することも示されている(2)。また,ブラックマスタード(Brassica nigra)は,オオモンシロチョウに産卵されると葉の表面の匂いを変化させるが,オオモンシロチョウの雌はこの匂いを忌避することが報告されている(3)。

直接的な防御反応としては,昆虫に産卵された植物が,卵と葉の表面の間に新たな組織を形成することにより,卵を剥がしたり壊したりすることが報告されている。ホオズキ属の葉は,Heliothis subflexa(ヤガ科)に産卵されると,卵の下に新たな組織を発達させる(4)。また,産卵された植物が殺卵剤を生成するという報告もある。イネは,セジロウンカに産卵されると殺卵効果のある安息香酸ベンジルを含む病斑を形成する(5,6)。

以上のような植物の防御反応に対する昆虫の対処については,分かっている知見は少なく,さらなる研究が必要とされる(1)が,集合的に産卵することで,植物の防御反応を克服する例がある。 Pyrrbalta viburni(ハムシ科)は既に卵の産みつけられたガマズミに好んで産卵する。卵の密度が高くなるほど卵の生存率は上昇し,産卵に対する植物の防御反応は抑制される(7)。また幼虫のパフォーマンスも向上すると報告されている(8)。

”Mothor knows best”仮説やPreference-performance hypothesis(PPH)は,産卵するメス親が子供の適応度が最大になるように産卵場所を選ぶという仮説であり,これまでこの説の検証のため多くの研究がなされてきた。しかしこれまでの研究では,子供の適応度は幼虫のパフォーマンスのみによって測られることが多く,卵時代の適応度はほとんど無視されてきた。また,幼虫に与える餌は,卵が産みつけられていない植物の葉が使用されるのが通例であった。しかし,先述したように,植物によって卵が攻撃を受けるならば,卵の生存率を子供の適応度に含めることが適切であるし,産卵によって植物の質が変化するならば,実験で幼虫に与える餌は,卵の産みつけられた植物を使うべきである(1)。これまでに雌成虫の寄主選好性と,幼虫のパフォーマンスの不一致はしばしば報告されているが,これは産卵そのものがpreferenceとperformanceの関係に影響を及ぼしていることに起因する可能性がある。

Reference

(1)Hilker, Monika, and Nina E. Fatouros. “Plant responses to insect egg deposition.” Annual review of entomology 60 (2015): 493-515.

(2)Bruce, Toby JA, et al. “Is quality more important than quantity? Insect behavioural responses to changes in a volatile blend after stemborer oviposition on an African grass.” Biology letters 6.3 (2010): 314-317.

(3)Fatouros, Nina E., et al. “Plant volatiles induced by herbivore egg deposition affect insects of different trophic levels.” PLoS one 7.8 (2012): e43607.

(4)PETZOLD‐MAXWELL, JENNIFER, et al. “Host plant direct defence against eggs of its specialist herbivore, Heliothis subflexa.” Ecological Entomology 36.6 (2011): 700-708.

(5)Seino, Yoshito, Yoshito Suzuki, and Kazushige Sogawa. “An Ovicidal Substance Produced by Rice Plants in Response to Oviposition by the Whitebacked Planthopper, Sogatella furcifera (HORVATH)(Homoptera: Delphacidae).” Applied Entomology and Zoology 31.4 (1996): 467-473.

(6)Suzuki, Yoshito, Kazushige Sogawa, and Yoshito Seino. “Ovicidal reaction of rice plants against the whitebacked planthopper, Sogatella furcifera Horvath (Homoptera: Delphacidae).” Applied entomology and zoology 31.1 (1996): 111-118.

(7)Desurmont, Gaylord A., and Paul A. Weston. “Aggregative oviposition of a phytophagous beetle overcomes egg‐crushing plant defences.” Ecological Entomology 36.3 (2011): 335-343.

(8)Desurmont, Gaylord A., Paul A. Weston, and Anurag A. Agrawal. “Reduction of oviposition time and enhanced larval feeding: Two potential benefits of aggregative oviposition for the viburnum leaf beetle.” Ecological Entomology 39.1 (2014): 125-132.