ライバル存在下で起こるキイロショウジョウバエのオスの繁殖戦略の変化 修士2年 豊嶋直樹

ライバル存在下で起こるキイロショウジョウバエのオスの繁殖戦略の変化 修士2年 豊嶋直樹

「ライバル存在下で起こるキイロショウジョウバエのオスの繁殖戦略の変化」

2020年5月25日(月)10:00~ 於 応用昆虫学研究室(ZOOM)

応用昆虫学研究室 修士2年 豊嶋直樹

交尾行動には捕食リスクの増大や採餌時間の減少といったコストがかかり、また成功する機会の希少性もあるので、オスは確実に子孫が残せるよう個々の交尾機会に対して適切に投資する必要がある。特に他のオスが近くにいる場合、そのオスが後から同じメスと交尾することで精子競争に負けてしまう可能性があるため、より一回の交尾効率を上げなければならない。今回は、キイロショウジョウバエのオスが他のオスが近くにいたときにどのような対策を取っているのかを考察する。

まず、オスは他のオスと一緒に飼育された場合、単独で飼育された場合に比べて、メスと出会ってから交尾に至るまでの時間が短くなることが分かっている[1]。これはオスが他のオスに奪われる前にメスを獲得するべく、いち早く交尾しようとしたためだと述べられている。そのあとの交尾行動自体にも変化が現れる。他のオスがいた時はいなかった時に比べて交尾持続時間が長くなり[2]、他のオスと同居していた時間が長いほど交尾持続時間もより長くなる[3]。これは、交尾時間を長くすることでメスの体内に送り込む精子の量を増やし、他のオスとの精子競争での勝率を上げるためだと考えられている。実際に他のオスと同居したオスは、単独で飼育されたオスに比べて精子の産生量も多くなっている[4]。

一方で、精液の大部分を占める精液タンパク質の比率は、他のオスの存在によって下がってしまうという結果がある[5]。精液タンパク質が精子の活性を上げる機能を持っていることを考慮すると、その比率を下げることは精子競争に打ち勝つという目的に反しているように思われる。どうしてこのような現象が起こるのだろうか?

そこでより詳しく精液の機能に着目した研究を見ていくことにする。まず、自分の精液が他のオスの精子に及ぼす影響を調べたところ、自身の精子と同様に他のオスの精子の生存率も高めてしまうことがわかった[6]。さらに、先にメスの体内に送り込まれていたオスの精液が、後から交尾したオスの子の数を増加させてしまうという結果も得られている[7]。これらの結果から、精液はむしろ他のオスの子孫繁栄に加担してしまっていると言える。筆者らはそのメカニズムについて、メスの生殖管に付着した最初のオスの精液タンパク質が、後から交尾したオスの精子の生存率や活性の向上といった恩恵を与えているのではないかと考察している。この説に従うと、ライバルに遭遇したオスは、精液タンパク質が他のオスにとって恩恵となることを防ぐためにその比率を下げているのだと考えることが出来る。キイロショウジョウバエのオスはライバルのオスに遭遇すると、交尾において行動だけでなく精液の組成まで変えることで、自分の子孫を最大限に残すための徹底的な対策を取っているのだろう。

References

[1] Filice, DCS ; Bhargava, R ; Dukas, R. (2020) ‘Plasticity in male mating behavior modulates female life history in fruit flies’ EVOLUTION, 74 , 2 , 365-376

[2] Nandy, B ; Dasgupta, P ; Halder, S ; Verma, T. (2016) ‘Plasticity in aggression and the correlated changes in the cost of reproduction in male Drosophila melanogaster’ ANIMAL BEHAVIOUR, 114, 3-9

[3] Bretman, A ; Fricke, C ; Hetherington, P ; Stone, R ; Chapman, T. (2010) ‘Exposure to rivals and plastic responses to sperm competition in Drosophila melanogaster’ BEHAVIORAL ECOLOGY, 21, 2, 317-321

[4] Moatt, JP ; Dytham, C ; Thom, MDF. (2014) ‘Sperm production responds to perceived sperm competition risk in male Drosophila melanogaster’ PHYSIOLOGY & BEHAVIOR, 131, 111-114

[5] Fedorka, KM ; Winterhalter, WE ; Ware, B. (2011) ‘PERCEIVED SPERM COMPETITION INTENSITY INFLUENCES SEMINAL FLUID PROTEIN PRODUCTION PRIOR TO COURTSHIP AND MATING’ EVOLUTION, 65, 2, 584-590

[6] Holman, L. (2009) ‘Drosophila melanogaster seminal fluid can protect the sperm of other males’ FUNCTIONAL ECOLOGY, 23, 1, 180-186

[7] Nguyen, TTX ; Moehring, AJ. (2018) ‘A male’s seminal fluid increases later competitors’ productivity’ JOURNAL OF EVOLUTIONARY BIOLOGY, 31, 10, 1572-1581