共喰いとは、動物が同種の他個体を殺して、その全部あるいは一部を食べる行為であり、昆虫にも広く見られる現象である。極めて残酷で利己的な行為に見えるが、実は昆虫にとって栄養の供給、競争の抑制、個体密度の調整など重要な意義を持っている。今回のセミナーでは、ショウジョウバエの共喰いについて紹介する。
ショウジョウバエの共喰いは、幼虫と幼虫、幼虫と卵、幼虫と蛹の間で起こる。ショウジョウバエの幼虫間で起きている共喰いは、共喰いする方の個体よりも大きな幼虫が襲われる点で多くの昆虫と異なっている。キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)の若齢幼虫は蛹化の準備に入っている自分よりも大きな終齢幼虫をしばしば攻撃し、食べている(1)。また、飢餓状態下の幼虫は同種の卵も食べることがある(2)。ただし、この行為は血縁関係に影響され、捕食者と血縁関係がある幼虫や卵よりも血縁関係がないものが共喰いされやすい(3)(4)。キイロショウジョウバエの他にも、オウトウショウジョウバエ(D. suzukii)の終齢幼虫が同種の蛹を捕食することも確認されている(5)。
共喰いを防ぐための多様な戦略が存在することも分かっている。D. melanogasterは特定の炭化水素を用いて共喰いをする幼虫から卵を化学的に隠す(6)。D. suzukiiの終齢幼虫はエサから離れて蛹化する(5)ことで共喰いを回避するなどの例が知られている。
D. melanogasterとD. suzukiiの他の種でも共喰いが起きているのだろうか?近年、D. melanogaster以外に、D. simulansとD. auraria、D. triaurariaを使ったショウジョウバエの共喰いに関する研究が行われた結果、D. melanogasterとD. simulansの若齢幼虫は同種の老齢幼虫に誘引されたが、D. aurariaとD. triaurariaはそうではなく、共喰いはショウジョウバエにおいて普遍的な現象ではない可能性が示唆された(7)。
ショウジョウバエの共喰いについての研究は比較的最近になって注目されるようになり、共喰い現象に関する新たな視点を提供した。共喰いが生態や進化にどのような影響を与えているのかを解明するためには、さらなる研究が必要である。
References
[1] Vijendravarma, et al. ” Predatory cannibalism in Drosophila melanogaster larvae.” NATURE COMMUNICATIONS | 4:1789 | DOI: 10.1038/ncomms2744.
[2] Ahmad, et al. ” Starvation-Induced Dietary Behaviour in Drosophila melanogaster Larvae and Adults.” Scientific Reports | 5:14285 | DOI: 10.1038/srep14285.
[3] Fisher, et al. ” Relatedness modulates density-dependent cannibalism rates in Drosophila.” Functional Ecology (2021);35:2707–2716.
[4] Khodaei, et al. ” Kin Recognition and Egg Cannibalism by Drosophila melanogaster Larvae. ” J Insect Behav (2020) 33:20–29.
[5] Silva, et al. “Intraspecifc Competition Afects the Pupation Behavior of Spotted Wing Drosophila (Drosophila suzukii).” Scientific Reports (2019) 9:7775 .
[6] Narasimha, et al. ” Drosophila melanogaster cloak their eggs with pheromones, which prevents cannibalism ” PLOS Biology | https://doi.org/10.1371/journal.pbio.2006012.
[7] Kakeya, et al. “Cannibalism and potential predation in larval drosophilids.” Journal of Ecological Entomology (2021) 46, 342–351.