豊嶋君が筆頭著者の論文 “Fight outcome influences male mating success in Drosophila prolongata” が Journal of Ethology 誌上で公開されました。(Open Access)
直前の闘争の勝敗が次の闘争に与える影響、すなわち勝者は次も勝つ確率が高くなり、反対に敗者は次も負けやすくなる現象は「勝者効果・敗者効果」といって様々な動物で観察されています。しかし、闘争の勝敗が直後の交尾行動に与える影響についてはこれまでほとんど調べられていませんでした。例えば、闘争に敗れたオスは正攻法で求愛するのをあきらめ、サテライト戦術を採用するかもしれません。
今回の研究では、まず2匹のテナガショウジョウバエのオスをマーキングで個体識別したうえで30分間闘争させ、優劣を決めました。続いてメスを1匹投入し、どちらのオスと交尾するかを観察したところ、勝者の方が多く交尾しました。これは予想通りの結果ですが、勝者が邪魔をしたので敗者の交尾率が下がったのかもしれません。
そこで次の実験では、闘争のあと2匹のオスを別々の容器に移してから、それぞれにメスを1匹ずつあてがいました。この場合、もはや勝者は敗者の邪魔をすることはできませんが、それでも敗者の交尾率は低下することがわかりました。これは、直前の闘争の経験そのものが交尾行動に影響を与えていることを示しています。
一方、まずオスたちに個別に交尾実験を行ってから、メスを取り除き闘争させたところ、交尾に成功したかどうかとその後の勝敗には全く関係がありませんでした。これは、1.交尾の経験は闘争行動に影響を与えない および 2.メスは将来負けることになるオスでも特に嫌いではない ことを示しています。
以上の結果から、闘争に負けたオスは何らかの理由で求愛意欲を失ってしまい、そのせいで交尾率が下がってしまうのだと考えられます。一方で、敗者がサテライト戦術を優先的に用いるという証拠は今回の研究では得られませんでした。
今回の研究成果はテナガショウジョウバエにおける闘争の結果が適応度に与える重要性を示しており、本種がなぜ闘争性が高いのか、なぜ顕著な性的二型が進化したのかについての一つの説明を与えるものです。
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