大学院の講義の一つ、「生産・環境生物学特別講義」の今年度の応用昆虫学研究室担当回は、ゲストスピーカーに森林総合研究所(森林研究・整備機構)の向井 裕美さんをお迎えして、「亜社会性昆虫の保育行動」についてお話しいただきます。
第4回生産・環境生物学特別講義
日時:6月8日(木)5限(16:50~18:35)
場所:1号館地階5番講義室
スピーカー1:星崎杉彦(応用昆虫学研究室・助教)16:50~17:05
「ウンカ・ヨコバイ類における音の出ない振動信号」
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セミのオスが腹部の器官を振動させて大音量で鳴き,この音響信号を介して雌雄がコミュニケートすることは一般によく知られている.しかし,セミの親類とも言える昆虫グループでは,音を出すことなく体を振動させてコミュニケーションをとることのほうが多いようである.この講義では,重要な農業害虫を含むウンカ類・ヨコバイ類を主にとりあげ,振動信号を見いだした古典的研究から近年の応用努力までを,ごく手短に紹介したい.
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スピーカー2:向井裕実(森林総合研究所)17:05~18:35
「亜社会性カメムシ類の親による胚の状態に応じた可塑的な保育行動」
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親鳥が卵のなかの雛の鳴き声に応えて卵殻を破壊するように,ある種の動物では胚(卵のなかの子)に対して保育行動を示すことが知られる.昆虫でも,社会性が発達した種では親への強い依存が促進されると予想され,親と胚の複雑な相互関係が生じている可能性が高い.雌親が卵保護や給餌などの保育行動を行うツチカメムシの仲間では,塊状にまとめられた数十を超える卵のほぼ全てが30分以内に孵化する.一連の研究により,1)孵化の瞬間に雌親が卵塊を抱えながら特徴的な振動シグナルを与えること,2)孵化の数日前から雌親が卵塊を回転させ,卵塊中に存在する温度勾配を解消し胚子発達速度を均一化させていることにより,緻密な一斉孵化が成し遂げられることが明らかになった.本講演では,鳥類に勝るとも劣らないカメムシの雌親が示す胚への緻密な保育行動を紹介し,それを担う親と胚のコミュニケーションやその進化プロセスについても議論したい.
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