昆虫幼若ホルモン生合成に関与するCYP15ファミリーの機能と多様性 修士課程2年 RongYu

昆虫幼若ホルモン生合成に関与するCYP15ファミリーの機能と多様性 修士課程2年 RongYu

幼若ホルモン(Juvenile hormones :JHs)はセスキテルぺノイド骨格を持つ昆虫に特有なホルモンであり、アラタ体(corpora allata :CA)という頭部にある小さな分泌器官で合成、分泌され、胚発生、脱皮、変態、休眠、社会性昆虫のカースト分化、性成熟、寿命など、卵から成虫までのあらゆるステージで多彩な生理現象を制御する(1,2)。

幼若ホルモンの合成過程は前半と後半とに分けることができる。合成過程の前半では、アセチルCoA、プロピオニルCoAから、メバロン酸やホモメバロン酸を経て、幼若ホルモンの基本骨格を持つファルネシルピロリン酸(farnesyl pyrophosphate :FPP)やホモファルネシルピロリン酸(ethyl-branched homologs of FPP :homoFPPs)が合成される。この生合成経路はメバロン酸経路と呼ばれる(3)。一方、合成過程の後半では、FPPまたはhomoFPPsが加水分解され、ファルネソール(farnesol)やホモファルネソール(homofarnesols)を経て、ファルネセン酸(farnesoic acid :FA)またはホモファルネセン酸(homoFAs)に酸化される。FAやhomoFAsはその後、メチルトランスフェラーゼによるC1のエステル化とミクロソームシトクロムP450によるC10とC11のエポキシ化を介してエポキシ環を持つメチルエステル体の活性型幼若ホルモンに変換される(2)。特に、カイコにおけるメチルトランスフェラーゼ(JHAMT)(4)とゴキブリでのエポキシダーゼ(CYP15A1)(5)の同定は、幼若ホルモン生合成経路の全体像を理解することという点で重要である。

生化学的な研究から、カイコガの属する鱗翅目では、FAは最初にミクロソームP450エポキシダーゼによって幼若ホルモン酸(JH acid)にエポキシ化され、その後メチルトランスフェラーゼによってメチル化されて幼若ホルモンが合成される。一方、直翅目、網翅目、鞘翅目、双翅目など他の昆虫種では、FAはファルネセン酸メチルエステル(methyl farnesoate :MF)にメチル化された後、幼若ホルモンにエポキシ化される(2)。

最初の幼若ホルモン生合成に関与するエポキシダーゼは、ゴキブリの一種(D. punctata)から遺伝子がクローニングされ、CYP15A1と名付けた。この遺伝子のmRNAはアラタ体で特異的に発現し、大腸菌で発現させた組換え体タンパク質を用いてこの酵素が実際に幼若ホルモン合成の最終ステップの反応を触媒できることが示されている。また、CYP15A1は高い基質選択性を示した。CYP15A1は、MFを効率的にエポキシ化するが、farnesol、farnesal 、FA及びJHIIIなどMFの幾何異性体または他のテルべノイドに対して活性を持たないと報告されている(5)。更に、CYP15A1の発現レベルはJH生合成活性とよく相関している(5)。

最近、カイコガからもエポキシダーゼ(CYP15C1)が同定され、幼若ホルモンの生合成に不可欠であることが証明された。CYP15A1と違って、CYP15C1はアラタ体で常に発現していて、幼若ホルモン生合成活性との相関性を示さなかった(6)。その代わりに、JHAMTの発現パターンは、JH生合成活性と一致している(4)。重要なことは、CYP15C1はCYP15A1と異なる基質選択性を示すところである。D. punctataのCYP15A1がMFに活性を示すことに対し、CYP15C1がFAに示した活性はMFに示した活性より遥かに高いこと(少なくとも18倍)がわかった(6)。更にJHAMTが同様の効率でFAとJH acidをメチル化していることも踏まえて(4)、この二つの生合成経路の違い(メチル化反応とエポキシ化反応の順番の違い)は、主にCYP15の基質選択性の違いによって説明することができるのかもしれない(6)。

CYP15遺伝子は多様な昆虫種からクローニングされている(5,6,7,8,9)。S.gregariaでは、RNAi法でCYP15A1をノックダウンすることによって、JHの生合成が減少し、大量のMFがアラタ体で蓄積した(8)。一方、R. flavipesでは、CYP15F1は全身で発現し、遺伝子をノックダウンすることでJH依存のpresoldierの分化が著しく減衰された。しかしこれは恐らくJH生合成の阻害ではなく、JHシグナル伝達の阻害によって引き起こされたことである(9)。このセミナーでは、JH生合成経路及び生合成酵素に関する最近の進展、特にCYP15ファミリーの機能と多様性に注目し、紹介する。

References

[1] Daimon,T.,Shinoda,T.(2013) Function, diversity, and application of insect juvenile hormone epoxidases (CYP15). Biotechnol Appl Biochem.60(1),82-91.
[2] Goodman, W. G., and Cusson, M. (2012) In Insect Endocrinology(Gilbert, L. I., ed.). pp. 311-365, Elsevier, London, UK.
[3] Belles, X., Martin, D., and Piulachs, M. D. (2005) The mevalonate pathway and the synthesis of juvenile hormone in insects.Annu. Rev. Entomol. 50, 181-199.
[4] Shinoda, T., and Itoyama, K. (2003) Juvenile hormone acid methyltransferase: a key regulatory enzyme for insect metamorphosis.Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 11986-11991.
[5] Helvig, C., Koener, J. F., Unnithan, G. C., and Feyereisen, R. (2004) CYP15A1, the cytochrome P450 that catalyzes epoxidation of methyl farnesoate to juvenile hormone III in cockroach corpora allata. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 4024-4029.
[6] Daimon, T., Kozaki, T., Niwa, R., Kobayashi, I., Furuta, K., Namiki, T., Uchino, K., Banno, Y., Katsuma, S., Tamura, T., Mita, K., Sezutsu, H., Nakayama, M., Itoyama, K., Shimada, T., and Shinoda, T. (2012) Precocious Metamorphosis in the Juvenile Hormone?Deficient Mutant of the Silkworm, Bombyx mori. PLoS Genet. 8, e1002486,1-13.
[7] Maestro, J. L., Pascual, N., Treiblmayr, K., Lozano, J., and Belles, X. (2010) Juvenile hormone and allatostatins in the German cockroach embryo.Insect Biochem. Mol. Biol. 40, 660-665.
[8] Marchal, E., Zhang, J., Badisco, L., Verlinden, H., Hult, E. F., Van Wielendaele, P., Yagi, K. J., Tobe, S. S., and Vanden Broeck, J. (2011) Final steps in juvenile hormone biosynthesis in the desert locust, Schistocerca gregaria.Insect Biochem. Mol. Biol. 41, 219-227.
[9] Tarver, M. R., Coy, M. R., and Scharf, M. E. (2012) Cyp15F1: A novel cytochrome p450 gene linked to juvenile hormone-dependent caste differention in the termite Reticulitermes flavipes.Arch. Insect Biochem. Physiol. 80, 92-108.