集団行動 (collective behavior)は、単純な行動をする個体が相互作用することで集団になり、それによって外界に対して適応性のある複雑な行動ができるようになる現象である[1]。このような現象は群れで行動する魚や鳥でよく知られている[2]。集団行動を対象とした研究の多くは複雑な行動が現実される仕組みを理解することを目的としている[3]。今回は、集団行動に関する研究例をその手法に着目して紹介する。
まず、一つ目の研究は、アリが餌を運ぶ時の集団行動を対象にした研究である[4][5]。この研究では、アリに餌を集団で巣まで運ばせる様子を動画で撮影し、その行動を解析している。その過程で、アリが餌を集団で運ぶ時には最適な匹数が存在するのではないかということに気付いた。その最適な匹数を、相転移のモデルとして用いられる統計物理学のイジングモデルを用いて数式的に導出し、アリが餌を運ぶ時の集団の様子をモデル化することに成功した。この研究によって、アリが餌を運ぶ時に最適な匹数を保って、効率よく巣まで餌を運んでいることを数式的に説明でき、この結果は現実の餌の運搬に一致していた。
もう一つの研究は、キイロショウジョウバエ集団を対象にした研究である[6]。この研究も先ほどのアリの研究と同様に、ハエ集団を動画で撮影し、その行動を解析している。その結果、嫌悪性の匂いがある状況で、集団的行動を示すことが明らかになった。刺激に対して、個々のハエの回避反応は弱い[7]。しかしながら、密度によって忌避性が変化し、集団になることによって回避反応が増強される。この研究では集団の行動をモデル化するのではなく、変異体を用いたり、感覚器に着目して、集団行動のメカニズムに迫った。そして、集団行動を増強するのは個々の接触刺激であり、それは、機械感覚を担う感覚子ニューロンと機械感覚チャネルの活性化が必要であることが明らかになった。
これら二つの研究例はどちらも昆虫の集団行動に着目したものであるが、その用いた方法は異なっている。一つ目のアリの研究では、モデル化することによってその集団の振る舞いを明らかにしているが、どのような生物学的メカニズムで最適な匹数が選ばれているのかという生物学的な視点が欠けている。一方、ハエの研究では、モデル化を行うのではなく、生物学的メカニズムについての言及が行われている。多くの集団行動の研究では、モデル化を行うことで行動を見ているが、そのことによって、現実の生物学的メカニズムがかえってわかりづらくなっているかも知れない。モデル化によって得られた結果から、生物学的な発見を導くことができれば、集団行動の更なる理解につながると期待できる。
References
[1] D. Biro, T. Sasaki, and S. J. Portugal, “Bringing a Time-Depth Perspective to Collective Animal Behaviour.,” Trends Ecol. Evol., vol. 31, no. 7, pp. 550–62, Jul. 2016.
[2] D. J. . Sumpter, “The principles of collective animal behaviour,” Philos. Trans. R. Soc. London B Biol. Sci., vol. 361, no. 1465, 2006.
[3] I. D. COUZIN, J. KRAUSE, R. JAMES, G. D. RUXTON, and N. R. FRANKS, “Collective Memory and Spatial Sorting in Animal Groups,” J. Theor. Biol., vol. 218, no. 1, pp. 1–11, Sep. 2002.
[4] A. Gelblum, “Ant groups optimally amplify the effect of transiently informed individuals,” Nat. Commun., vol. 6, p. 9, 2015. [5] E. Fonio, Y. Heyman, L. Boczkowski, A. Gelblum, A. osowski, A. Korman, O. Feinerman, D. Sumpter, and N. Leonard, “A locally-blazed ant trail achieves efficient collective navigation despite limited information,” Elife, vol. 5, pp. 63–69, Nov. 2016.
[6] P. Ramdya, P. Lichocki, S. Cruchet, L. Frisch, W. Tse, D. Floreano, and R. Benton, “Mechanosensory interactions drive collective behaviour in Drosophila.,” Nature, vol. 519, no. 7542, pp. 233–236, 2014.
[7] G. S. B. Suh, A. M. Wong, A. C. Hergarden, J. W. Wang, A. F. Simon, S. Benzer, R. Axel, and D. J. Anderson, “A single population of olfactory sensory neurons mediates an innate avoidance behaviour in Drosophila,” Nature, vol. 431, no. 7010, pp. 854–859, Oct. 2004.