キイロショウジョウバエにおける「三角関係」 修士課程1年 渠 一村

キイロショウジョウバエにおける「三角関係」 修士課程1年 渠 一村

キイロショウジョウバエの求愛行動(1)と闘争行動(2)はこれまで詳細に研究されているが、それぞれは別々の現象として扱われてきた。実験においても、求愛行動は「オス1匹とメス1匹」が観察され、闘争行動は主として「オス2匹」の行動が観察されることが多い。しかし現実の状況はより複雑であり、複数のオスとメスが相互に影響を与え合いながら求愛と闘争が同時に起こるケースも考えなければならない。本セミナーでは、キイロショウジョウバエのオス2匹とメス1匹が同時にいる場合、すなわち「三角関係」状態においてどのような現象が生じるのかについて紹介していく。

オス2匹の状態では、オス1匹の場合と比較して求愛行動の内容が変化する。オスが2匹いると求愛歌を発する回数が減り、結果として総求愛時間が短縮される傾向が観察された(3)。また、1匹のオスが求愛しているメスを別のオスが奪って交尾をするサテライト行動が見られるが、体サイズが大きい方のオス、または日齢が長い方のオスがメスを奪う成功率が高い(4)。オス同士の闘争行動も交尾に影響を与え、闘争行動を行った後では交尾の意欲が減少する傾向が見られるが、特に負けたオスは勝ったオスより交尾試行が少なくなることが示された(5)。

一方、オス間では闘争行動だけではなく求愛行動も観察される(同性間性行動 SSB: same-sex sexual behaviour)。グループ内の性比がオス側に偏るほどSSBの発生率が高くなるが(6)、オス同士を連続して同居させておくと日が経つにつれてSSBが減少する。これはメスを見分ける能力の獲得には他オス個体との接触経験が必要で、社会的な経験がないオスは相手の性別を見分けることができないからだと考えられている(7)。しかしながら、オス同士で社会経験を積んだオスも「三角関係状態(オス2匹とメス1匹)」ではSSB発生率が上昇した(7)。

「三角関係状態」では、相手がオスであるかメスであるかによって求愛行動と闘争行動を適切に切り替えなければならない。このメカニズムの一部が中枢神経レベルで解明されている。求愛行動と闘争行動は脳内の興奮性神経クラスターpC1に含まれる2つの神経グループ(dsx発現ニューロンとfru発現ニューロン)がコマンドニューロンとなっており、ここへの抑制性入力をスイッチすることで行動を切り替えている(8)。

キイロショウジョウバエの求愛・闘争行動については長い研究の歴史があり、それぞれについては大変よくわかっているが、「三角関係」状態において何が起こるかについてはまだ不明点が多い。今後は求愛行動と闘争行動を総合的に研究することが必要である。

References

1. Greenspan RJ (2000) Courtship in Drosophila. Annual Reviews 34, 205-232.

2. JOHN P. J P (1975) Aggression and mating success in Drosophila melanogaster. Nature 254, 511-512.

3. Tauber E (2002) The Effect of Male Competition on the Courtship Song of Drosophila melanogaster. Journal of Insect Behaviour 15, 109-120.

4. Baxter C, Mentlik J, Shams I et al. (2018) Mating success in fruit flies: courtship interference versus female choice. Animal Behaviour 138, 101-108.

5. Teseo S, Veerus L, Mery F (2016) Fighting experience affects fruit fly behavior in a mating context. Naturwissenschaften 103, 38.

6. Bailey NW, Hoskins JL, Green J et al. (2013) Measuring same-sex sexual behaviour: the influence of the male social environment. Animal Behaviour 86, 91-100.

7. Macchiano A, Razik I, Sagot M (2018) Same-sex courtship behaviors in male-biased populations: evidence for the mistaken identity hypothesis. acta ethologica 21, 147-151.

8. Koganezawa M, Kimura K, Yamamoto D (2016) The Neural Circuitry that Functions as a Switch for Courtship versus Aggression in Drosophila Males. Curr Biol 26, 1395-1403.