チョウ目およびハエ目昆虫におけるSSD形成の機構 修士課程2年 大井 祐之介

チョウ目およびハエ目昆虫におけるSSD形成の機構 修士課程2年 大井 祐之介

多くの動物において、雌雄で成体の体サイズに差がある。これはsexual size dimorphism (SSD) と呼ばれている。昆虫の多くの種において、メス成虫の方がオス成虫よりも大きい体をもつ [1]。

成虫にSSDが生じるのは、幼虫期間の成長量に性差があるからである。幼虫期の成長量には、個体発育上のいくつかの要因が関与する。どの要因の性差がSSDの形成を決めているのかは、チョウ目においてよく研究されている。例として、ドクガ科の2種、マイマイガ (Lymantria dispar) と Orgyia antiqua では、メスの蛹はオスの蛹よりも明らかに大きい [2]。二種ともに、メスではオスよりも幼虫期間の齢が1つ多い傾向があり、このことがSSD形成の主要因であった。また、雌雄が同じ数の齢を経て蛹になる場合、メスの方が、終齢期間が長く、成長速度が大きかった。これらのことは齢数の性差の効果を補強している。次に、シャクガ科の一種 Ematurga atomaria では、齢数の性差はなく、メスの蛹はオスよりも少しだけ大きい [3]。メスの方が、終齢期間が長く、成長速度も大きく、この2つの効果によってSSDが形成されていた。また、終齢幼虫における摂食終了から蛹化するまでの体重減少量にも性差が認められている。E. atomaria、タバコスズメガ、キイロショウジョウバエのそれぞれにおいて、体重減少は、メスの方が大きい [3–5]。そのため、幼虫の最大体重と蛹体重のどちらを見るかによってSSDの程度は多少異なる。

幼虫期間の個体成長の大部分は、終齢期に起こる。チョウ目およびハエ目では、終齢期において幼虫の最大体重を決める仕組みがわかっており、その仕組みの要素ごとに性差が調べられた。タバコスズメガの終齢幼虫は、一定の体重 (critical weight, CW) に達すると、それから一定時間 (interval to cessation of growth, ICG) 後に摂食を停止し、蛹化する [6]。この仕組みでは、成長速度の高低、CW値の大小、ICGの長短のそれぞれが幼虫の最大体重を左右しうる。タバコスズメガの蛹は、メスの方が大きい。CW値はメスの方が大きく、ICGもメスの方が長かった。しかし、成長速度には性差がなかった [7]。キイロショウジョウバエではタバコスズメガ同様、オスよりもメスの方が蛹サイズが大きく、やはりCWを介する仕組みがある [8]。CW値はメスの方が大きく、terminal growth period (TGP, ICGとほぼ同義) はオスの方が長く、成長速度はメスの方が大きかった [5]。ヒメフンバエではメスよりもオスの方が蛹サイズが大きい。キイロショウジョウバエと同様の手法を用いて推定されたヒメフンバエのCWは、オスの方が大きかった [9]。このように、3種のいずれにおいても、SSD形成にCWの性差が関わっていたが、ICG (TGP) の長さと成長速度の性差については、種間で違いが見られた。

References

[1] Shingleton, A. W. & Vea, I. M. (2022). Sex-specific regulation of development, growth and metabolism. Seminars in Cell & Developmental Biology, (in press).

[2] Esperk, T. & Tammaru, T. (2006). Determination of female-biased sexual size dimorphism in moths with a variable instar number: the role of additional instars. European Journal of Entomology, 103, 575–586.

[3] Sõber, V., Sandre, S. L., Esperk, T., Teder, T. & Tammaru, T. (2019). Ontogeny of sexual size dimorphism revisited: females grow for a longer time and also faster. PLOS ONE, 14, e0215317.

[4] Stillwell, R. C., Daws, A. & Davidowitz, G. (2014). The ontogeny of sexual size dimorphism of a moth: when do males and females grow apart?. PLOS ONE, 9, e106548.

[5] Testa, N.D., Ghosh, S.M. & Shingleton, A.W. (2013). Sex-specific weight loss mediates sexual size dimorphism in Drosophila melanogaster. PLOS ONE, 8, e58936.

[6] Nijhout, H. F. & Williams, C. M. (1974). Control of moulting and metamorphosis in the tobacco hornworm, Manduca sexta (L.): growth of the last-instar larva and the decision to pupate. Journal of Experimental Biology, 61, 481–491.

[7] Stillwell, R. C. & Davidowitz, G. (2010). Sex differences in phenotypic plasticity of a mechanism that controls body size: implications for sexual size dimorphism. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 277, 3819–3826.

[8] Stieper, B. C., Kupershtok, M., Driscoll, M. V. & Shingleton, A. W. (2008). Imaginal discs regulate developmental timing in Drosophila melanogaster. Developmental Biology, 321, 18–26.

[9] Rohner, P. T., Blanckenhorn, W. U. & Schäfer, M. A. (2017). Critical weight mediates sex-specific body size plasticity and sexual dimorphism in the yellow dung fly Scathophaga stercoraria (Diptera: Scathophagidae). Evolution & Development, 19, 147–156.