勝者効果と敗者効果が成り立たない事例 ~勝者効果と敗者効果が成り立つための条件を考察する~ 修士1年 豊嶋 直樹

勝者効果と敗者効果が成り立たない事例 ~勝者効果と敗者効果が成り立つための条件を考察する~ 修士1年 豊嶋 直樹

動物は地位や資源をめぐって闘争を行うが、その結果が次の闘争の結果に影響を及ぼすこ と(勝者が再び勝つ可能性が高くなる勝者効果と、敗者が再び負ける可能性が高くなる敗者 効果)が知られている。しかし、勝者効果と敗者効果では説明できない事例もある。今回の セミナーでは、そのような事例を紹介し、勝者効果と敗者効果が成り立つための条件につい て考察する。

マングローブメダカにおいて、自らが闘争力に劣っていると認知している個体には 1 回の 敗北で敗者効果が表れるが、闘争力に優れていると自認している個体に敗者効果が現れる ためには、2 回連続の敗北経験を必要とした [1]。したがって、1 回の敗北が与える影響は その個体のそれ以前の自己認識によって変わりうることが分かる。

また、ソードテイルフィッシュでは、圧勝したり完敗したりした個体より、いい勝負をした 個体の方が劣位になった [2]。アマゾンモリーでも、負け続けている個体よりも勝ったり負 けたりした個体の方が下位になる [3]。これらは、闘争の結果だけではなく、その内容が敗 者効果の現れ方に影響を及ぼすことを示している。

さらに、地中海ミバエとオリーブミバエでは、2 回連続の敗北を経験するとむしろ闘争性が 上がるという驚くべき結果が示されている [4][5]。その原因は定かではないが、2 回連続し た敗北後の闘争では資源を得るために高いコストを払うようになると著者らは考察してい る。

アルゼンチンアリの働きアリは、他コロニーの個体と遭遇するだけで、勝負するまでもなく 闘争性が上がった [6]。働きアリは繁殖には参加しないため、死んでもコストが高くない。 むしろ、働きアリが敗者効果により闘争性を下げることはコロニー防衛の観点からは好ま しくないと考えられる。反対に、ミツバチの新女王候補は互いに相手が死ぬまで争うが、一 度闘争に勝ったメスは次の闘争では勝率が下がってしまう [7]。これは、生死を決するまで の闘争には高いコストがかかることを示している。勝者効果や敗者効果は、それによって不 要な闘争のコストを避けることが適応的である場合(例えば生き延びて次のチャンスが得られる場合)にのみ成立するのだと考えられる。

References

[1] Hsu, YY. Huang, YY. Wu, YT. (2014) ‘Multiple contest experiences interact to influence each other’s effect on subsequent contest decisions in a mangrove killifish’, 17, 2, 165-175.

[2] Beaugrand, JP. Goulet, C. (2000) ‘Distinguishing kinds of prior dominance and subordination experiences in males of green swordtail fish (Xiphophorus helleri)’, BEHAVIOURAL PROCESSES, 50, 2-3, 131-142.

[3] Laskowski, KL. Wolf, M. Bierbach, D. (2016) ‘The making of winners (and losers): how early dominance interactions determine adult social structure in a clonal fish’, PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY B-BIOLOGICAL SCIENCES, 283,1830.

[4]  Benelli, G. Romano, D. Desneux, N. Messing, RH. Canale, A. (2015). ‘Sex differences in fighting-induced hyperaggression in a fly’, ANIMAL BEHAVIOUR, 104, 165-174.

[5] Benelli, G. Desneux, N. Romano, D. Conte, G. Messing, RH. Canale, A. (2015). ‘Contest experience enhances aggressive behaviour in a fly: when losers learn to win’, SCIENTIFIC REPORTS,5,9347.

[6] Van Wilgenburg, E. Clemencet, J. Tsutsui, ND. (2010) ‘Experience influences aggressive behaviour in the Argentine ant’, BIOLOGY LETTERS, 6, 2, 152-155.

[7] Jackson, K. Robinson, GE. (2018) ‘Contest experience does not increase survivorship in honey bee queen duels’, INSECTES SOCIAUX, 65, 4, 631-637.