闘争性と交尾成功率の関係に関する論文が公開

闘争性と交尾成功率の関係に関する論文が公開

吉水君が筆頭著者の論文 “An Indirect Cost of Male-Male Aggression Arising from Female Response” がオンラインで先行公開Zoological Science誌 (39巻6号, 2022)に掲載されました。

この論文では、テナガショウジョウバエの闘争性や求愛戦術の異なる2つの系統を異なる割合で組み合わせた実験集団を作り、3日間にわたる昼夜を通した連続観察を行うことにより、それぞれの個体を識別したうえで全ての交尾を計測しました。(この研究を実現するにあたっては、3日間手を加えずに観察を続けられる装置や、暗闇でも撮影する方法、個体識別など、様々な点において技術的なハードルをクリアする必要がありました。)

その結果、闘争性の高い個体は、闘争性が低い個体と混在する集団では交尾回数が多くなるのに対し、闘争性の高い個体だけから構成される集団では個体あたりの交尾回数が減ってしまうことがわかりました。このような「闘争のコスト」はタカ・ハトゲームの予測を実験的にきれいに再現しています。実はタカ・ハトゲームの仮定は実際の生物に比べてあまりにも単純化されすぎており、これを実験的に再現しようとする試みはこれまで全く行われていませんでした(解説記事はこちら)。この研究は、実際の生物を使ってタカ・ハトゲームを再現した初の事例です。

なお、本来のタカ・ハトゲームでは「闘争のコスト」はケガや疲労など闘争行動に直接起因するものが想定されていますが、我々の実験系ではそうではなく、「乱暴に争い合うオスを嫌ったメスがエサ場に寄り付かなくなるため」に生じることがわかりました。つまり、なわばりのために闘争しているのに、そのせいでむしろなわばりの価値が下がってしまうことがある、という皮肉な結果です。これは「闘争のコスト」には闘争行動から直接生じるものの他にも、メスの反応を介した間接的な効果も含まれうることを示した点で新しい発見といえるでしょう。