昆虫にとって、産卵場所の選択は子の成長、種内及び種間競争、捕食者回避などに大きな影響を与える重要な因子である。双翅目カ科の昆虫では、水平に開いた場所、ざらざらした場所、暗色の壁、暗い場所に好んで産卵する[1]。
双翅目カ科の昆虫の産卵場所の選択は同種の卵や幼虫にも影響を受けることが報告されている。
ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)では、産卵場所の選択において、幼虫密度の高さは、餌よりも重要であることが示された[2]。この結果は、同種の存在が、その場所が幼虫の成長に関する指標として利用されているからではないかと考えられている。また、ヤブ科属の1種(Aedes triseriatus)では、同種の卵の数が多いほど、同種幼虫の密度が高いほど、産卵数が多くなる [3]。
しかしながら、産卵行動に同種の存在が誘引どころかむしろ忌避として働いている例も報告されている。ネッタイシマカ(Aedes aegypti)では、卵が無い場所に比べ、同種の産んだ卵及び自身が産んだ卵がある場所に有意に少なく産卵していた[4]。ハマダラカ(Anopheles gambiae)では幼虫密度が高くなると成虫の体サイズが小さくなること[5]、ハマダラカ科の一種(Anopheles arabiensis)では、体サイズの小さくなると個体は生存率や産卵数が減少することが示されている[5]。そのため、産卵する際に同種の存在を忌避することの理由の一つに、密度が高くなり過ぎないためであるということがあげられる[6]。
ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)では、幼虫の密度が低い時は産卵が誘引され、幼虫の密度が高い時は産卵を忌避した[7]。同種の存在が産卵を誘引もしくは忌避するという対立した結果は、誘引されるメリットと忌避するメリットとの相互作用によって引き起こされていると考えられる。この相互作用は、同種の密度と産卵率間の山型の関係であるという hump-shaped regulation (HSR)モデルが提唱された[8]。同種がいることのメリット(R)、幼虫がいることのデメリット(C)とし、その差を適合度G(G = R – C)とする。密度が上がるにつれGの値は上がり、途中で最大値Gmaxをとり、その後は下がっていく。このモデルよると、密度が低い場合は産卵が誘引され、密度が高い場合は産卵が忌避される。このモデルは蚊の産卵に関し普遍的であり、産卵が誘引されたとする研究は密度の低い一部分のみに対してであり、産卵が忌避されたとする研究は密度が高い一部分に対してのみという可能性が示唆された。ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の同種の幼虫、卵はこのモデルにあてはまった。
Reference
[1] Bentley MD, Day JF (1989) Chemical ecology and behavioral-aspects of mosquito oviposition. Annual Review of Entomology 34: 401–421
[2] Yoshioka M, Couret J, Kim F, McMillan J, Burkot TR, Doston EM, Kitron U, Vazquez-Prokopec, GM (2012) Diet and density dependent competition affect larval performance and oviposition site selection in the mosquito species Aedes albopictus (Diptera: Culicidae). Parasites & Vectors 5:225
[3] Edgerly JS, McFarland M, Morgan P, Livdahl T (1998) A seasonal shift in egg-laying behaviour in response to cues of future competition in a treehole mosquito. Journal of Animal Ecology 67: 805–818
[4] Chadee DD, Corbet PS, Greenwood JJD (1990) Egg-laying yellow-fever mosquitos avoid sites containing eggs laid by themselves or by conspecifics. Entomologia Experimentalis et Applicata 57: 295–298
[5] Gimnig JE, Ombok M, Otieno S, Kaufman MG, Vulule JM, Walker ED (2002) Density-Dependent Development of Anopheles gambiae (Diptera: Culicidae) Larvae in Artificial Habitats. Journal of Medical Entomology 39 (1): 162-172
[6] Ameneshewa B, Service MW (1996) The relationship between female body size and survival rate of the malaria vector Anopheles arabiensis in Ethiopia. Medical and Veterinary Entomology 10(2) 170-172
[7] Braks MAH, Leal WS, Carde RT (2007) Oviposition responses of gravid female Culex quinquefasciatus to egg rafts and low doses of oviposition pheromone under semifield conditions. Journal of Chemical Ecology 33: 567–578
[8]Wasserberg G, Bailes N, Davis C, Yeoman, K (2014) Hump-shaped density-dependent regulation of mosquito oviposition site-selection by conspecific immature stages: theory, field test with Aedes albopictus, and a meta-analysis. Plos One 9