植食性昆虫のメス成虫は,次世代幼虫のために正しく寄主植物を選択し産卵する。このような植食性昆虫はしばしば農業害虫となるが,その寄主植物探索機構を探ることは,防除・品種改良といった農学的知見に貢献しうる。メスの寄主選択に関する研究には様々な手法があるが,今回のゼミでは,主に行動実験について重点的に説明する。
寄主植物を探索しているメスは,遠距離から飛来する間は嗅覚・視覚,実際に着陸・産卵するときには嗅覚以外に触覚・味覚を利用する可能性がある(1)。例えばハムシは,葉の表面ではなく裏面のワックスからのみ産卵刺激を受ける(2)。しかし嗅覚からの情報は必須であり,これまでの多くの研究は嗅覚に注目したものであった。
嗅覚に着目した行動実験のうち,もっとも単純なものはアリーナ型のものであり(3),匂い源に到着した頭数や所要時間を記録する。Y字管・T字管テストは,匂い源の誘引性又は忌避性を,controlに対して調べることができる。虫によっては,中に足場となる直線状の通路を通すことがある。風洞実験は,もともと性フェロモンの研究のために考えられたものであるが,植物の匂い成分に対する走化性のテストにも用いられる(4)。
行動実験の結果に影響を及ぼす素因として,虫の発育段階・栄養状態・交尾の有無が考えられる(1)が,特に鱗翅目昆虫では交尾によって特定の行動のスイッチのon/offが切り替わることが知られている。モンシロチョウでは,(交尾前でなく)交尾後のメスだけが,嗅覚によって寄主植物に選択的に着陸する(5)。Spodoptera littoralisでは,未交尾メスがライラックの花に誘引される一方,交尾後メスは幼虫の食草(寄主植物)であるコットンに誘引されるようになる(6)。
またSpodoptera littoralisでは,寄主探索をする母虫が,幼虫時代に食草とした植物により誘引され多くの卵を産むという報告があり(7),幼虫期の経験が寄主探索行動に影響する可能性を示唆している。
(1) Knolhoff, Lisa M., and David G. Heckel. “Behavioral assays for studies of host plant choice and adaptation in herbivorous insects.” Annual review of entomology 59 (2014): 263-278.
(2) Muller C, Hilker M. 2001. Host finding and oviposition behavior in a chrysomelid specialist: the impor- ¨ tance of host plant surface waxes. J. Chem. Ecol. 27:985–94
(3) Wood DL, Browne LE, Silverstein RM, Rodin JO. 1966. Sex pheromones of bark beetles. I. Mass production of bioassay source and isolation of sex pheromone of Ips confusus (Lec). J. Insect Physiol. 12:523–36
(4)Cha, Dong H., et al. “Flight tunnel responses of female grape berry moth (Paralobesia viteana) to host plants.” Journal of chemical ecology 34.5 (2008): 622-627.
(5) Ikeura H, Kobayashi F, Hayata Y. 2010. How do Pieris rapae search for Brassicaceae host plants? Biochem. Syst. Ecol. 38:1199–203
(6) Saveer AM, Kromann SH, Birgersson G, Bengtsson M, Lindblom T, et al. 2012. Floral to green: mating switches moth olfactory coding and preference. Proc. R. Soc. B 279:2314–22
(7) Anderson, P., et al. “Larval host plant experience modulates both mate finding and oviposition choice in a moth.” Animal Behaviour 85.6 (2013): 1169-1175.