多くの昆虫で幼虫は親が産卵した資源を食べて成長することになる.特にパッチ状に分布をする資源(果実や花)を利用する種においては幼虫の資源間の移動が困難であるため,親の産卵基質選択がダイレクトに適応度に影響を与えると言えるだろう.
最適採餌理論(optimal foraging theory)によると,生物は自分の適応度を最大化させるような採餌戦略を採用し,より少ないコストでより大きい利益を得ようとしている.この理論を昆虫の産卵基質選択に当てはめると「大きい果実や花は目立つため少ないコストで見つけることができ,得られる利益も大きくなる」ということになる.また,小さい産卵基質に多く産卵すると子同士の競争が激化し適応度への悪影響が生じる[2].この点からも,より大きな産卵基質を選ぶことが適応的であると考えられる.
実際に、チチュウカイミバ(Ceratitis capitate)は果実の大きさによって産卵数を変えることがわかっており,ブドウ,プラム,リンゴ,モモの4つの果実を提示したところ,大きい果実にはより多く産卵した[3].しかし,オリーブミバエ(Dacus oleae)に大きさの異なる2つの人工産卵基質を提示した2チョイス実験では,直径35mmまでは大きいほうの産卵基質に多く産卵したが,それ以上の大きさになると今度は小さい産卵基質に多く産卵した[4].この結果は最適採餌理論だけでは説明することができない.オリーブミバエが実際に利用するオリーブの果実の大きさは最大で直径35mmであり,そのことが最も好まれる産卵基質の大きさと関係があるようだ.
また,ワタの蕾と実を利用するワタミハナゾウムシ(Anthonomus grandis)は,大きな実よりも小さな蕾に多く産卵するが[5],これは実の方が幼虫に対する資源としての価値が低いからだと考えられている[6].さらに,イガヤグルマギクの花蕾を産卵基質として利用するミバエの一種のChaetorellia australisに人工産卵基質を提示する実験では,小さな産卵基質をより高頻度で訪れ,大きな産卵基質には産卵しないことが示された[7].これは,花蕾は時間が経つにつれ果実へ変化して可食部は減少していくため,より若い花蕾の方が長期間利用できるからだと考えられている.
以上みてきたように,昆虫は大きさによっても産卵基質を選択しているが,好まれる大きさは昆虫によって異なっており,常に大きい産卵基質が好まれるわけではなさそうだ.
References
[1] Scheirs, Jan, and Luc De Bruyn. “Integrating optimal foraging and optimal oviposition theory in plant–insect research.” Oikos 96.1 (2002): 187-191.
[2] Skinner, Samuel Way. “Clutch size as an optimal foraging problem for insects.” Behavioral Ecology and Sociobiology 17.3 (1985): 231-238.
[3] McDonald, P. T., and D. O. McInnis. “Ceratitis capitata: effect of host fruit size on the number of eggs per clutch.” Entomologia
experimentalis et applicata 37.3 (1985): 207-211.
[4] Katsoyannos, Byron I., and Irene S. Pittara. “Effect of size of artificial oviposition substrates and presence of natural host fruits on the selection of oviposition site by Dacus oleae.” Entomologia experimentalis et applicata 34.3 (1983): 326-332.
[5] Greenberg, Shoil M., et al. “Influence of different cotton fruit sizes on boll weevil (Coleoptera: Curculionidae) oviposition and
survival to adulthood.” Environmental entomology 33.2 (2004): 443-449.
[6] Showler, Allan T. “Relationships of different cotton square sizes to boll weevil (Coleoptera: Curculionidae) feeding and oviposition in field conditions.” Journal of economic entomology 98.5 (2005): 1572-1579.
[7] Pittara, I. S., and B. I. Katsoyannos. “Effect of shape, size and color on selection of oviposition sites by Chaetorellia australis.”
Entomologia experimentalis et applicata 63.2 (1992): 105-113.
昆虫の産卵基質選択における大きさの効果 修士課程1年 阿久津純一
- 昆虫における 温度−サイズ則 とその機構 修士課程1年 大井 祐之介
- キイロショウジョウバエにおける「三角関係」 修士課程1年 渠 一村