オウトウショウジョウバエが宿主を探す際に用いる手がかり 修士課程1年 馬梓涵

オウトウショウジョウバエが宿主を探す際に用いる手がかり 修士課程1年 馬梓涵

昆虫は味覚、視覚、嗅覚などを通して様々な外部刺激を受容し、それらを元にもとに宿主を決めている。オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)は多くのショウジョウバエと異なり、腐敗する前の果物に産卵するユニークな種として知られている。今回のセミナーでは、D. suzukiiが宿主を探す時に利用する手がかりについて紹介していく。

嗅覚について、本種は他のショウジョウバエと異なり酵母菌の少ない発酵する前の果実を利用するが、加害中の果実からは酵母が検出されている(1)。実際に本種は酵母に誘引されるが、本種の主な宿主植物であるラズベリーとブラックベリーの匂いと合わさると酵母菌への好みが強く抑制された(2)。

また視覚ついては、本種の主な宿主植物であるベリー類の成熟果実が持つ赤色と黒色に誘引されやすい(3)。味覚についての好みもこの結果と一致し、果実が色づき始めると共に果実の糖度が上がり、本種に襲われるリスクが上がる(4)。ただし、果実の種類によっては逆に糖度が低い果実で多くの幼虫が育つ現象も確認された。著者たちは、果実の種類による感受性の違いは、糖度以外に、果実の食感、硬さ、大きさなど、他の要因にも大きく影響されている可能性があると指摘した。本種は宿主を探す際に複数の環境情報を一定な優先順位で利用し、優先度が高い情報の変化によって、宿主への選好性も変わる可能性がある。

もう一つの例としては、果実の傷についての選好性があげられる。小さくて果皮が柔らかいブルーベリーを宿主にする場合、本種の雌は傷がついた果実より無傷の果実を好まれるようである(5)が、より大きくて果皮が硬いブドウ(6)や果皮に毛がついている桃(7)に産卵しようとする場合、逆に傷付けられた果実を好むことが分かった。また、本種は複雑な構造を持つ果実にはあまり産卵しない(8)。複雑な構造を持つ果実は、他の果実よりも繊維質が多く、幼虫が果肉内を移動するのを妨げ摂食効率を低下させる可能性がある。

上述のように、D. suzukiiは、化学的手がかり(酵母、匂い、糖)と物理的手がかり(色、傷、形)を同時に用いて宿主を探している。今後はそれぞれの手がかりを個別に研究するだけでなく、どのような優先順位と相互関係があるのかを解明することも重要な課題と考えられる。

References

[1] Hamby, et al. ” Associations of Yeasts with Spotted-Wing Drosophila (Drosophila suzukii; Diptera: Drosophilidae) in Cherries and Raspberries.” Applied and Environmental Microbiology 78.14 (2012) :4869–4873.

[2] Juan Huang, Larry J. Gut . ” Impact of Background Fruit Odors on Attraction of Drosophila suzukii (Diptera: Drosophilidae) to Its Symbiotic Yeast.” Journal of Insect Science, 21.2 (2021) : 4; 1–7.

[3] Kirkpatrick, et al. ” Alightment of SpottedWing Drosophila (Diptera:Drosophilidae) on Odorless Disks Varying in Color.” Environmental Entomology, 45.1 (2016): 185–191.
[4] Lee, et al. ” The susceptibility of small fruits and cherries to the spotted-wing drosophila, Drosophila suzukii. ” Pest Manag Sci 67 (2011) : 1358–1367.

[5] Renate Kienzle , Marko Rohlfs . “Mind the Wound!—Fruit Injury Ranks Higher than, and Interacts with, Heterospecific Cues for Drosophila suzukii Oviposition.” Insects 12.424 (2021).

[6] Ioriatti, et al. “Drosophila suzukii (Diptera: Drosophilidae) and its potential impact to wine grapes during harvest in two cool climate wine grape production regions.” Journal of Economic Entomology 108.3 (2015): 1148-1155.

[7]  Stewart, et al. ” Factors Limiting Peach as a Potential Host for Drosophila suzukii(Diptera: Drosophilidae) ” Journal of Economic Entomology 107.5 (2014): 1771-1779 .

[8] Poyet, et al. “The wide potential trophic niche of the Asiatic fruit fly Drosophila suzukii: The key of its invasion success in temperate Europe? “
PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0142785.