変態タイミング研究における minimum viable weight 概念と critical weight 概念 修士課程1年 大井 祐之介

変態タイミング研究における minimum viable weight 概念と critical weight 概念 修士課程1年 大井 祐之介

完全変態昆虫類の終齢幼虫は蛹化変態に向けていくつもの生理的な変化を起こす。それらのうち最初に起きる変化は、変態の意思決定であると考えられる。

変態の意思決定タイミングの研究は絶食実験を用いて進められてきた。その古典的な成果がminimum viable weight (MVW) およびcritical weight (CW) と呼ばれる概念である。タバコスズメガの終齢幼虫を様々な体重で絶食すると、絶食時の体重が大きいほど蛹化成功率が上がる。そこで50%の個体が蛹化に成功する体重がMVW と定義された [1]。また、ある決まった体重に到達すると、摂食の有無にかかわらず、蛹化までの時間 (time to pupation, TTP) は変わらない。この体重がCWと定義された [2]。このように、絶食実験における蛹化成功率データとTTPデータからMVWとTTPがそれぞれ定義された。タバコスズメガ以外の鱗翅目昆虫については、近年、カイコでCWが用いられていることが報告された [3]。これによって、CWは鱗翅目共通のシステムである可能性が示された。ただし、この研究では絶食実験に対照区が欠けていたため、タバコスズメガと同じ現象であるかどうか注意は必要である。

一方、キイロショウジョウバエの変態研究においては、蛹化成功率データだけが解析される、すなわちMVWが指標として用いられることが多い。高温条件下でCWが小さくなったという報告 [4] や、低栄養条件下で累代するとCWが小さくなったという報告 [5]、早く羽化する個体を選抜するとCWが小さくなり、またCWに到達してから蛹化するまでの期間が短くなったという報告 [6] などがある。これらの論文では本来はMVWとすべきところにCWという用語が用いられている。このような経緯を踏まえて、Stieperらはキイロショウジョウバエの蛹化成功率データとTTPデータの両方を調べた [7]。その結果、キイロショウジョウバエのCWはMVWに非常に近いこと、それでもMVWとCWは異なる仕組みである可能性が高いことがわかった。また、絶食を経験すると蛹化が早まるというキイロショウジョウバエの性質のために、CWの指定において対照区データが利用されなかった。

鞘翅目のコロラドハムシについてもCWが用いられているという報告が、近年出た [8]。しかし、その論文の図では、体重増加に伴うTTPの変動パターンがタバコスズメガにおけるそれとは異なっている。そのため、コロラドハムシの変態のタイミングはCWではなく別のシステムで決まっている可能性が高い。

蛹化の意思決定は昆虫のグループ間で異なっており、先行研究を理解する際にも、実験結果を解析する際にも、注意が必要である。

References

  1. Nijhout HF. 1975 A threshold size for metamorphosis in the tobacco hornworm, Manduca sexta (L.). Biol. Bull. 149, 214–225.
  2. Nijhout HF, Williams CM. 1974 Control of moulting and metamorphosis in the tobacco hornworm, Manduca sexta (L.): growth of the last-instar larva and the decision to pupate. J. Exp. Biol. 61, 481–491.
  3. Keshan B, Thounaojam B, KH SD. 2015 A comprehensive study of the changes in ecdysteroid levels during the feeding phase of fifth instar larvae of the silkworm, Bombyx mori (Lepidoptera: Bombycidae). Eur. J. Entomol. 112(4), 632–641.
  4. De Moed GH, Kruitwagen CLJJ, De Jong G, Scharloo W. 1999 Critical weight for the induction of pupariation in Drosophila melanogaster: genetic and environmental variation. J. Evol. Biol. 12, 852–858.
  5. Vijendravarma RK, Narasimha S, Kawecki TJ. 2011 Chronic malnutrition favours smaller critical size for metamorphosis initiation in Drosophila melanogaster. J. Evol. Biol. 25, 288–292.
  6. Sharma K, Mishra N, Shakarad MN. 2020 Evolution of reduced minimum critical size as a response to selection for rapid pre-adult development in Drosophila melanogaster. R. Soc. Open Sci. 7, 191910.
  7. Stieper BC, Kupershtok M, Driscoll MV, Shingleton AW. 2008 Imaginal discs regulate developmental timing in Drosophila melanogaster. Dev. Biol. 321, 18–26.
  8. Meng QW, Xu QY, Deng P, Fu KY, Guo WC, Li GQ. 2018 Involvement of methoprene-tolerant (Met) in the determination of the final body size in Leptinotarsa decemlineata (Say) larvae. Insect. Biochem. Mol. Biol. 97, 1–9.