オウトウショウジョウバエは硬い産卵基質を好むのか 修士課程2年 阿久津純一

オウトウショウジョウバエは硬い産卵基質を好むのか 修士課程2年 阿久津純一

 オウトウショウジョウバエ(Drosphila suzukii)は棘のある産卵管を持ち,他のショウジョウバエと異なり発酵する前の果実に産卵することができる.すなわち,より硬い基質に産卵できるようになったことがオウトウショウジョウバエの食性進化において鍵となる形質といえる.そのため,オウトウショウジョウバエは硬い基質を好んで産卵するとよく考えられがちであるが,本当だろうか?
 硬さへの産卵選好性について,寒天を用いての柔らかい産卵基質と硬い産卵基質を選ばせる2択実験では,キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)とDrosophila biarmipesは柔らかい基質を好んで産卵したのに対し,オウトウショウジョウバエは柔らかい産卵基質と硬い産卵基質の間で選り好みは見られなかった[1].また,寒天濃度がそれぞれ1,2,3%の産卵基質に対して無選択実験を行ったところD. biarmipesは2%以上の基質では産卵割合が低下したのに対し,オウトウショウジョウバエはどの濃度に対しても産卵割合が変わらなかった[2].この結果は,オウトウショウジョウバエは硬い基質にも産卵できるが,それを積極的に好むわけではないことを示している.実際のところ,オウトウショウジョウバエが自然条件下で利用する果実を用いての実験では果実硬度が高くなるほど産卵数が低下し[3],むしろ傷のついた柔らかいと思われる果実に好んで産卵する結果も得られている[4].
 一方,傷のついている果実には他のショウジョウバエも産卵できるため種間で競争が起きる可能性がある.オウトウショウジョウバエとキイロショウジョウバエの幼虫間の競争を調べた実験ではキイロショウジョウバエが存在するとオウトウショウジョウバエの羽化数が低下することからオウトウショウジョウバエはキイロショウジョウバエと比べて競争に弱い可能性が示唆された[5].
 オウトウショウジョウバエが他のショウジョウバエと比べて競争に弱いとすると,産卵の際にそれらの種との競争を回避する行動が見られると考えられる.微生物の存在する基質と存在しない基質を選ばせる2択実験では,キイロショウジョウバエとD. biarmipesは微生物の存在する基質を好んだのに対し,オウトウショウジョウバエは微生物の存在しない基質を好んだ[6].ショウジョウバエの体表には酵母が付着しており,産卵した果実の発酵を促すと考えられており,微生物の存在は既に産卵された果実であることの指標となっている可能性がある.さらに,4種のショウジョウバエあるいはオウトウショウジョウバエの匂いをつけた各産卵基質に対してオウトウショウジョウバエの産卵数を観察したところ,4種いずれの匂いに対しても産卵数が低下し,オウトウショウジョウバエの匂いがある時のみ産卵数が増加した[7].オウトウショウジョウバエが産卵後に分泌する化合物はオウトウショウジョウバエに対して誘引作用があり,その化合物を塗布した果実への産卵数は塗布していないものと比べて有意に多くなった[8].
 以上の結果をまとめると,オウトウショウジョウバエは硬い産卵基質を好むわけではなく,むしろ柔らかい果実を好む傾向がある.しかし柔らかい果実の利用は他種との競争を引き起こす可能性があり,やむを得ずそれを避けた結果として,野外では硬い果実を利用しているのかもしれない.


References

[1]Karageorgi, Marianthi, et al. “Evolution of multiple sensory systems drives novel egg-laying behavior in the fruit pest Drosophila suzukii. ” Current Biology 27.6 (2017): 847-853.

[2] Silva-Soares, Nuno F., et al. “Adaptation to new nutritional environments: larval performance, foraging decisions,and adult oviposition choices in Drosophila suzukii.” BMC ecology 17.1 (2017): 1-13.

[3] Burrack, Hannah J., et al. “Variation in selection and utilization of host crops in the field and laboratory by Drosophila suzukii Matsumara (Diptera: Drosophilidae), an invasive frugivore.” Pest Management Science 69.10 (2013): 1173-1180.

[4] Ioriatti, Claudio, et al. “Drosophila suzukii (Diptera: Drosophilidae) and its potential impact to wine grapes during harvest in two cool climate wine grape production regions.” Journal of Economic Entomology 108.3 (2015): 1148-1155.

[5] Shaw, Bethan, et al. “Reducing Drosophila suzukii emergence through inter‐species competition.” Pest management science 74.6 (2018): 1466-1471.

[6] Sato, Airi, et al. “Drosophila suzukii avoidance of microbes in oviposition choice.” Royal Society open science 8.1 (2021): 201601.

[7] Kidera, Hiroaki, and Kazuo H. Takahashi. “Chemical cues from competitors change the oviposition preference of Drosophila suzukii.” Entomologia Experimentalis et Applicata 168.4 (2020): 304-310.

[8] Tait, Gabriella, et al. “Reproductive site selection: evidence of an oviposition cue in a highly adaptive dipteran, Drosophila suzukii (Diptera: Drosophilidae).” Environmental entomology 49.2 (2020): 355-363.